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花譜MV『畢生よ』 多分3番目くらいに早いロケ地巡礼レポ #花譜

まえがき

 初めましての方は初めまして、そうでない方はご無沙汰しております。筑波現視研レビュー班の桐一葉(きりひとは)です。

 この記事は、以前班僚の紅葉くんが投稿してくれました「花譜MV『過去を喰らう』ロケ地巡礼レポ」の影響を受けて(というか題材をほぼそのまま借りて)作成したものになります。この記事以降、私も花譜ちゃんの歌を聴くようになったため、せっかくなら新鮮な話題がいいのではないかと思い、最新MVを選んでみました。丁度通院治療などの関係で東京都区部の実家に帰省していたため、タイミングもよかったです。

 今回は出歩く距離を極力減らすため、事前に地図やGoogleストリートビューを用いてある程度捜索しておきました。ただし、いくつかの場所については実際行ってみて初めて分かったものもあります。今回、おそらく合成だと思われる倉庫(?)内を除き、幸いにも実写パートの撮影地を全て特定・撮影できましたのでご紹介いたします。

本稿について

 まずは今回ロケ地を巡った花譜ちゃんの最新MV『畢生よ』をご紹介しておきます。本曲は、山田悠介さんの小説『俺の残機を投下します』テーマソングとなっています。

www.youtube.com

 私は、音程を気にしすぎることなく豊富な表現力を存分に生かした歌唱と、現実と非現実の境界を融かしてくれる半実写の映像の組み合わさった花譜ちゃんのMVを観てすぐに虜になりました。
 今回、まったく土地勘のない場所で少しずつ手がかりを見つけながら、ロケ地を導き出していきましたので、そこに至るまでの論理や方法にも注目して頂けるとありがたいです(アナタが気になっているあの作品にも応用できるかもしれませんよ)。

撮影機材:Xperia XZ1 Compact
撮影人数:1名(筆者)
撮影日:2020年8月25日(一部8月30日)

ロケ地の紹介

 上記の地図は、撮影地点をGoogle Map上にマッピングしたものです。以下、この地図をもとに、動画の再生時間とその歌詞とともに、カットごとに解説していきます。上掲の動画をご覧頂きながら読むとわかりやすいかと思います。また、地図タイトル左側のアイコンをクリックするとマッピング地点の一覧が表示されますので、合わせてご覧ください。

①「僕らは~偉大さに」(0分25秒~0分29秒)/間奏(1分26秒~1分28秒)

撮影地:富ヶ谷歩道橋(渋谷区富ヶ谷一丁目)
アクセス:小田急小田原線「代々木八幡」駅下車徒歩2分
     東京メトロ千代田線「代々木公園」駅下車徒歩2分

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富ヶ谷歩道橋
 まず、後述する古着屋や京王井の頭線の光景から、世田谷区やその周辺と当たりをつけました。そして、写っている歩道橋の特徴から、片側2車線の道路同士が垂直に交わっている交差点をGoogle Mapで探しました。現在、Google Mapでは歩道橋の形状まで表示されるため、いちいちストリートビューに降りる必要がなく楽でした。また、上部に高架が写っていないため、高速道路の下を通る国道20号甲州街道、246号玉川通りを除外できたのも大きかったです。数分後、都道413号井の頭通りと同317号山手通りが交差する渋谷区富ヶ谷交差点の歩道橋、並びに付近のマンションがカットと一致することを確認しました。

②「欲望し続けて~手入れ不足だ」(0分30秒~0分35秒)/「すれ違う生涯すら様々」(1分45秒~1分47秒)/「じゃあ僕は何をしてんだ」(1分47秒~1分49秒)

撮影地:淡島通り 松見坂下バス停付近(目黒区駒場一丁目)
アクセス:小田急バス渋54系統「松見坂下」バス停下車すぐ
     京王井の頭線「神泉」駅下車、南口より徒歩8分
     東急田園都市線「池尻大橋」駅下車、北口より徒歩10分

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淡島通り
 壁面や雰囲気が一致していること、本MVでは同一箇所でまとめて撮っているカットが多いことから、これら3カットは同一地点で撮影されたものと断定して捜索しました。
 この地点の捜索には、私の経験が活きました。私の旧居に近い新宿区新宿六丁目には、下側の壁面塗装・道路と階段を降りる方向の関係・落下防止柵などが明らかに異なっているものの、道路とそれをくぐる道路が階段で連絡されており本カットと似た雰囲気のある地点があります。そこでは、都道302号線が小規模の台地から低平地に降りてくる際、下にスペースが生じ、その空間を崖下の道がくぐる、という位置関係になっています。したがって、【図解】のように、台地の末端部に本カットや新宿六丁目のような光景が生じるのではないかと考えました。これに従って、Google mapの「地形」機能や地理院地図の「自分で作る高度段彩図」機能を使用し、世田谷・渋谷・目黒の台地末端を調査しました。すると、井の頭線神泉駅からおよそ600mの地点、都道423号淡島通りが台地を駆け下ってくる「松見坂」と、その下を通る道路が階段で連絡されており、カットと完全に一致しました。
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【図解】段崖を降りてくる道路の下を別の道が通る
 くぐる道路側の壁面・ガードレール・「T-003」と書かれたシールはもちろんのこと、上側の落下防止柵・降りる方向(車道の進行方向と同じ)・自転車レーンなどが一致していることがおわかり頂けるかと思います。おそらく随所で望遠レンズを使ったりF値を弄ってぼかしたりしているのですが、今回使った撮影機材ではそれができなかったので必ずしもピタリ一致した写真になっていないのは申し訳ないです。
 なお本地点は、経堂駅・梅ヶ丘駅から小田急バス渋54系統に乗車し、「松見坂下」バス停で下車して0秒の位置にあります。近くにお住まいの方は小田急バスで出かけてみてはいかがでしょうか。よく考えると私は当該地点を渋54で通過したことがあったのですが、なかなか覚えていない、分からないものですね。

③「奪う側と奪われる側」(0分35秒~0分38秒)

撮影地:下北沢駅 京王井の頭線ホーム裏手
アクセス:下北沢駅下車徒歩1分

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下北沢駅裏手
 草生したフェンス状の何か(広告の裏側でしょう)の奥に、トタン風の丸く折れ曲がった屋根が見えます。まず間違いなく駅のホームです。
 で、そのホームですが、広告で隠れている=フェンスから少し距離があるので、2本の線路が1個のホームを挟む「島式ホーム」と考えられます。今回調査対象とした下北沢・代々木八幡周辺で、地上に島式ホームを有するのは代々木八幡・(京王)下北沢・池ノ上・駒場東大前の4駅です。どうせ下北沢だろと思いつつ一応全部見て回りましたが、まあ下北沢でしたね。右上に写るビルの配色、並びにフェンス下側の「AYO」と読める落書きが同じです。

④「与える側と与えられる側」(0分38秒~0分39秒)

撮影地:昭和パーキング第6駐車場(世田谷区北沢一丁目)

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④昭和パーキング第6駐車場
 これはノーヒントだったので、下北沢・代々木八幡周辺の駐車場を、衛星写真を用いて探しました。「24」番の駐車スペースがあるということはそれなりに広いということなので、上から見ても十分分かると思ったからです。目論見通り、青と白のボーダーをバックに並ぶ駐車スペースが見つかりました。車が駐まっていたので全く同じ風景というわけにはいきませんでしたが、まあよしとします。

⑤「気付くまで~無様だ」(0分40秒~0分45秒)

撮影地:biensol(世田谷区北沢二丁目)

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⑤biensol
 特に手がかりがなかったので、写っている「BIENSOL」という文字をとりあえず検索すると、すぐ下北沢の古着屋さんであることが分かりました。本MVが下北沢周辺で撮影されたのではないか? と考えるきっかけになりました。当たり前ですが、この壁面は落書きではなくデザインです。

⑥間奏(1分23秒~1分26秒)

撮影地:代々木八幡1号踏切(渋谷区富ヶ谷一丁目)
アクセス:小田急小田原線「代々木八幡」駅下車すぐ
     東京メトロ千代田線「代々木公園」駅下車すぐ

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⑥代々木八幡1号踏切
 これが普通の踏切であればすぐ諦めるところでしたが、線路を跨ぐように何かの高架橋が写っているので、特定しようという機運になりました。当初、井の頭線が写るカットがあったこと、小田急小田原線東急田園都市線は大体高架か地下という考えがあったことにより、井の頭線沿線をGoogle ストリートビューで徘徊し、20分ほど何の成果も得られませんでした。一時は、小田急地下化前の下北沢では(?)などという突拍子もない考えに突き当たるほどでした。
 しかし、これを後回しにして先に富ヶ谷歩道橋と淡島通りを特定したことで、撮影者は代々木八幡駅を起点に、神泉に向かって山手通りを南下した(乃至その逆)のではないか? という考えに至り、同時に小田急小田原線も南新宿~代々木八幡間は地上区間であることを思い出すことができました。そこで代々木八幡駅脇で山手通りの高架と線路が交差するところを調べたところ、高架の形状と色・警報器の形状・道路標識が一致しました。
 ところでこの踏切、もともとは高架下になかったものを移転したそうです。駅のホームを改良するのに邪魔だったため、新宿寄りの位置からここに移動させたのだとか。小田急沿線はいつ行っても工事をやっている気がしますが、その工事がなければ見つけることは困難な風景だったわけですね。

⑦「小汚い~過去が」(1分28秒~1分33秒)

場所:京王井の頭線高架下 下北沢東会入口
アクセス:下北沢駅下車徒歩2分

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井の頭線高架下
 古着屋が下北沢と分かってからは下北沢中心の捜索となりました。というのも、右側に写っている高架には架線柱が乗っており、明らかに鉄道の高架橋だったからです。井の頭線は下北沢付近で高架になっていますし、下北沢ではずっと工事をやっていますから、映像の条件に丁度合う場所です。というわけで、ストリートビューを使うと1分くらいで見つかりました。
 また、直後の横顔もここで撮ったものです。花譜ちゃんの奥に、赤い文字が5個取り付けられた青い縦長の看板があります。これはご存知、カラオケ館のものですね。上記の高架下から右側を向くと、カラオケ館の看板がありますから間違いありません。建物の壁に張り付いた雨樋も同じ形をしています。安いスマートフォンで撮ったので、映像と同じ雰囲気が出せなくて申し訳ありません。

⑧「当たり前のように~邪魔をする」(1分34秒~1分39秒)

場所:下北沢一番街 路地裏

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⑧路地裏
 最初に見たときはすぐに「無理だろうなぁ」と思いました。細い路地が世田谷・渋谷・目黒全体で何本あるか分かりません。
 ただ、映像を拡大しながら細かく見ていくと、場面転換直後に一瞬だけ左奥の布がはためいていること、奥の路上に丁字路を示す表示があり、路地を出た道もまた狭そうであること、そして向こう側のビルが格子状のシャッターを有することが分かりました。以上のことから、どこかの商店街だろうと大雑把に予測して、代々木八幡商店会、池ノ上商会などを通りがかりに見回しましたが、当然(?)見つかりません。
 そして下北沢で最後の撮影を終え、「世の中、一つくらい分からないままでいい」「知らない方が良いこともある」というそれっぽい言い訳を考えて引き上げようとしたところ、通りかかったのは偶然にもこの路地の入り口でした。狭さ、奥の建物のシャッター、郵便ポストなどが完全に一致しています。心の中で雄叫びを上げながら、拳を腰に当て、静かに強く握りしめました。

⑨「奪う者と奪われる者」(1分39秒~1分42秒)

撮影地:山手通り・目黒川 目黒橋(目黒区青葉台三丁目)
アクセス:東急田園都市線「池尻大橋」駅下車、東口より徒歩8分
     東急東横線東京メトロ日比谷線「中目黒」駅下車、徒歩15分

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⑨目黒橋
 橋らしき欄干の後方には暗闇が広がり、ヒントはほとんどありません。ただ、私はこういうところで諦めが悪い男です(知らないよ)。漆黒の闇に浮き上がる光線が、不自然であることに気がつきました。仮に、高架橋から下界を眺めており、F値をいじったために光がぼやけているなら、光は光源から同心円状に広がるはずです。しかし、このカットではそうなっていません。しかも、光源はゆらゆら揺れています。そこで、この光は水面に反射したもので、欄干は川にかかる橋のものではないかと仮説を立てました。幸いなことに令和2年、23区南西部の川は悉く暗渠化され、水面が見えるのは目黒川や仙川などごく一部です。そして、他の撮影地に近い目黒川を上流部から調べていくと、目黒橋の欄干がその形状・材質のみならず、貼られたシールまでMVのものと一致することがわかりました。ストリートビューに写るシールを見た際、思わず感嘆の声を上げてしまいました。我ながらよく見つけたものだなぁと思います。

⑩「失敗したら失敗したまま」(1分42秒~1分44秒)

撮影地:山手通り 陸橋高架下 (目黒区青葉台三丁目)
アクセス:東急田園都市線「池尻大橋」駅下車、東口より徒歩8分
     東急東横線東京メトロ日比谷線「中目黒」駅下車、徒歩15分

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⑩山手通り高架下

 陸橋が高度を下げてくるところの高架下であるということは見れば分かります。流石に捜索対象地域の陸橋を全て把握することはできないため、代々木八幡駅、松見坂下、目黒橋の位置関係から「撮影者は山手通りを歩いた」と仮定し沿線を調べたところ、先述の目黒橋のすぐそばでこの光景は見つかりました。

⑪間奏(2分27秒~2分32秒)

撮影地:下北沢駅付近

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下北沢駅付近
 実際に地点を特定した順番でいうと、ここは2番目です。花譜ちゃんの背後を通過する電車の形式から路線を特定しました。東京都内でオレンジと赤の帯を持つ電車は、京王1000系(京王井の頭線)*1東急電鉄9000系(東急大井町線)*2東葉高速鉄道2000系(JR中央・総武線各駅停車、東京メトロ東西線)の3形式が考えられます。このうち、東葉2000系は帯の上下が映像と反対です。また、東急9000系はかなり有力な候補でしたが、車体に貼られているはずの「大井町線」のステッカーが確認できないこと、優先席表示のデザインが異なることから、京王1000系と断定しました。
 井の頭線沿線と分かってからは数分で見つかりました。沿線の住宅街を想像していましたが、灯台もと暗し、下北沢駅の裏手でした。Googleストリートビューではまだ工事中の写真が掲載されており、銀色の金網はまだ工事用の白いフェンスとして写っています。しかし、カーブミラーや自動販売機、掲示板、車両の上半分を隠す構造物などの特徴が一致したことからこの箇所と断定。工事が終了して銀色の金網が見えるようになったと判断し現地に赴いたところ、映像通りの金網に変わっていました。ただ、重機が駐まっていたことと電車の時刻の問題があり同様の構図を撮れませんでした。
9月1日写真差し替え:8月30日に下北沢を訪れる用事ができたので、30分ほど粘って映像と同色の編成が停まっているところを撮りました(フェンスの前にバイクが駐まってましたが……)。電車が来るまで付き合ってくださった早大のIくんにはこの場を借りて感謝申し上げます。

感想

 土地勘がある方なら一目で分かってしまうような光景の連続でしたが、世田谷なんてお洒落な場所にはなかなか縁遠いので地道に探していくほかありませんでした。かなり疲れましたね。
 現実と非現実の境界が曖昧化する今日、サブカルにも実写の作品が増えてくることが予想されます。個人的には、こうした実写は作品にリアリティを生み出すだけでなく、我々の立ち位置を曖昧にし、非現実と交わることが可能であるかのような、あるいは非現実が現実の一部であるかのような淡い妄想を抱くことを許してくれる、そんな優しさを持つ表現だと思います。今回軽く紹介した着眼点が、いろいろな「同じ場所」に生きたい、という方の一助になれば幸いです。

編集履歴

2020年8月26日 初版公開 2020年9月1日 一部写真差し替えとそれに付随する文章修正、一部脚注追加

*1:一部編成のみ

*2:などといけしゃあしゃあと書いていますが、読者の方から「東急9000系の帯が赤とオレンジなのは正面だけでは?」とのご指摘を頂きました。記憶が曖昧で資料写真の光線状態も特殊だったようです。申し訳ありません。