筑波大学現代視覚文化研究会レビュー班 公式ブログ

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ジャンルレス化する漫画雑誌

はじめに

 はじめまして。筑波大学現代視覚文化研究会レビュー班(レ班)のカサギと申します。大学に入学し、数あるサークルの中からげんしけんを選び、そしてレ班に所属してから早二か月、私にもお鉢が回ってきたので今回ブログを執筆させていただこうと思います。

 唐突ですが、皆さんは普段漫画を読みますか? 読むのでしたら、どんな漫画が好きですか? 少年漫画、少女漫画、「きらら系」と呼ばれるような日常もの、などなど人それぞれ好みはあるでしょう。 漫画には読者層に応じて様々なジャンルが存在しますが、最近ではそのジャンルは多様化し、「少年」や「少女」、「青年」のように性別や読者の年齢層では区別できなくなっているものも多いです。今回はこのようにジャンルレス化している漫画雑誌について話そうと思います。

雑誌の紹介

月刊少年ガンガン

 「少年」や「少女」の区別が希薄な漫画雑誌としてまず初めにお話したいのは月刊少年ガンガンスクウェア・エニックスより刊行されている「月刊少年ガンガン」およびガンガン系列の雑誌での連載作品のことを「ガンガン系」ということもあります。月刊少年ガンガンは、雑誌名に「少年」の名を冠しつつも、創刊から4年経った1995年頃から徐々に連載作品に少年漫画・少女漫画の枠が無くなっていき、それぞれの漫画が同じ誌面に載る独特な雑誌になっていきました。
 現在もそれは色濃く続いていて、「戦×恋」や「不徳のギルド」といった性的な描写の多いものから、「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」や(随分と休載していましたが)「紅心王子」といった女性向けの恋愛ファンタジーストーリーといった多彩なジャンルの作品が現在も同じガンガンの誌面を賑わせています。

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左は「戦×恋」が表紙の月刊少年ガンガン*1また、右は「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」が表紙の月刊少年ガンガン*2

  余談ですが、私はもう永遠に連載再開しないのではないかと思っていた「紅心王子」の最新第17&18巻が今年9月(6年ぶり‼)に発売されるようなので、当時から追っていた方は是非チェックしてはいかがでしょうか。
 また、2009年に創刊されたガンガン系列の雑誌「ガンガンJOKER」の公式サイトに書かれている雑誌の紹介文は、『キュンとする青春ものから、男心くすぐるダークファンタジー、あるいは疲れたOLにおすすめのコメディー4コマまで、ジャンルレスで楽しめる「ガンガンJOKER」!』であり、ガンガン系の特徴であるジャンルレスである点をより前面に押し出したものとなっています。

月刊コミックジーン

 次に、ジャンルレス化する漫画雑誌の例として挙げたい雑誌はメディアファクトリーが刊行する「月刊コミックジーン」です。2011年に創刊されたこの雑誌のコンセプトは「女性の為の少年漫画雑誌」でした。
 「ニーチェ先生」や「SERVAMP-サーヴァンプ-」といった作品を世に輩出したこの雑誌は、pixivと早い時期から連携し、「ジーピクシブ」というpixivコミック内雑誌を他の雑誌に先駆けて創刊したことも含め、当時の漫画雑誌の中でも先進的なものであったと思います。

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月刊コミックジーン*3

 2020年になって、白泉社が刊行する少女漫画雑誌である「花とゆめ」が、「かっこいい男性キャラを追求してきた花ゆめが、少年漫画好きの女性も増えてきている今日、少年漫画を作らない理由がない!」という理念のもと電子少年漫画雑誌の刊行を決定しました。この流れを考えると、女性の為の少年漫画雑誌を2011年に創刊するということは時代を先読みした新たな試みだったと思います。

ヒバナ

 2015年3月には、「ぼくらの」、「ドロヘドロ」などの人気作品を輩出しながらも2014年に休刊となった小学館の青年誌「月刊IKKI」の後継誌として「ヒバナ」という雑誌が創刊されました。漫画マニアをも唸らせる個性的な漫画を多く掲載し、「小学館のガロ *4」とも呼ばれていたIKKIの後継誌であるヒバナも漫画雑誌のジャンルレス化を感じさせる独特な誌面であったと思います。

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左はIKKI最終号の表紙。*5右はヒバナ創刊号の表紙である。*6

 キラキラのクラブから始まる大人のガールズラブストーリー「アフターアワーズ」や男子高校生の交流を描いた「あちらこちらぼくら」など、読者層を限定しない幅広いジャンルの漫画がヒバナには掲載されていました。
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左は西尾雄太作「アフターアワーズ*7、右はたなと作「あちらこちらぼくら」*8
 ヒバナは特にBL界隈で活動していた作家による作品の掲載が多かったように思います。猫と男性の登場する読切を様々な作家に描いてもらうゲスト読み切りシリーズ「猫と男」では、はらだ、絵津鼓、波真田かもめといった有名なBL作家が参加し、このシリーズに作家したほとんどの作家が一般誌初登場であったことも考えると、ヒバナは青年誌における新たな枠組を構築していたように思います。また、その他の連載作家の中にも渦井、たなと、秀吉子といったBL作品を多く執筆している作家が多かったことから、新たに青年誌に女性読者を呼び込もうとしていたことも考えられます。
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秀吉子作「ロメオがライバル」が表紙のヒバナ*9。BL作品を多く手掛けてきた秀吉子にとってこの作品が一般誌ストーリー初連載であった。

 しかし、それだけではなく、東村アキコによる本格歴史漫画「雪花の虎」や、移籍先の裏サンデーにて現在人気を誇る「翼くんはあかぬけたいのに」といった非常に多くのジャンルに渡る面白い作品がヒバナには多く掲載されており、本当に私は当時漫画雑誌がジャンルレスになっていることを実感していました。
 当時というのは、こちらのヒバナ、2017年に出版不況のあおりを受けてあえなく休刊となってしまっています。「アフターアワーズ」は小学館の漫画アプリ「MangaONE」に移籍、「あちらこちらぼくら」は集英社のBLレーベル「.Bloom」に移籍し、そこから新装版の刊行及び続編の連載が始まりました。

 ちなみに「ドロヘドロ」はスピリッツ増刊IKKIIKKIヒバナゲッサンと3回もの掲載誌移籍を経験した作品です。最終的にめでたくアニメ化も果たし、単行本は全23巻が発売中です。

少年マガジンエッジ

 この「ヒバナ」と似たような方向性の雑誌として、2015年9月に創刊された講談社の「少年マガジンエッジ」が挙げられます。
 こちらの雑誌は、2014年の「月刊少年ライバル」の休刊に伴って創刊された雑誌ですが、王道の少年漫画雑誌であった月刊少年ライバルに対して、「エッジ」という名が表すように、従来の少年漫画という枠組から捉えると、他の雑誌とは一線を画したものになっていました。

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少年マガジンエッジ*10

 キャッチコピーも『マガジンブランドのいちばん「外側」を行く、「好き」を極めるネオ・ビジュアル少年誌』となっており、創刊当時のラインナップを見てみると、少年漫画を描いていた作家の中にも、雨森ジジ、はる桜菜などのBL作家として活動していた漫画家の少年誌初連載、また「ラブプラス」シリーズのキャラクターデザインを手掛けた箕星太朗、「メタルギア」のキャラクターイラストを手掛けたイラストレーターであるアシュレイ・ウッドの初漫画連載など従来のマガジンブランドにはあまり見られなかった「とがった」漫画が多く掲載されると同時に、他にも「K」シリーズのスピンオフ漫画や「ヒプノシスマイク」のコミカライズなど、女性向けコンテンツの漫画も多く掲載されており、また秀吉子先生はヒバナでの連載と同時にこちらでも連載を持っていました。
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単行本が発売される際には、出版社の垣根を超えたキャンペーンが開催された。*11

 しかし、ヒバナと同様に、煩悩まみれラブコメ「みだらな青ちゃんは勉強ができない」やライトノベルキノの旅」のコミカライズ、かつて週刊少年ジャンプにて連載された「シャーマンキング」の続編なども同時に掲載され、少年漫画雑誌であるマガジンブランドの一番外側を名乗るにふさわしい独特なラインナップとなっていました。(現在は相次ぐ連載作品の終了により物理的にも中身的にも薄くなってるので心配ではありますが。)

他にも

 これらの雑誌の他にも青年誌である集英社ウルトラジャンプには不定期で百合アンソロジー「ユリトラジャンプ」が付録としてついてくることがあります。また、集英社の漫画アプリ「少年ジャンプ+」においても、女性向け漫画誌「月刊YOU」から桃栗みかんの「群青にサイレン」の移籍、またTVアニメ「刀剣乱舞-花丸-」のコミカライズなど、従来の少年漫画の枠に囚われない連載作品が今までありました。

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ユリトラジャンプ第1巻の表紙。画質が悪くてすみません……*12

おわりに

 これまで、ジャンルレス化の進む漫画雑誌をいくつか挙げてきました。少年漫画や少女漫画といった枠組はきっとこれから先も消えないと私は思います。しかし、その中身はますます多様化していくでしょう。枠組みの縁をなぞるような雑誌も増えていくように思います。
 しかし、そうすることで自分が興味を持っていなかったジャンルの作品にも一つの雑誌を買うことで出会い、もしかしたら予期せぬ名作に巡り会うかもしれません。今までつらつら書いてきましたが、皆様にお勧めしたいのは「漫画雑誌を買おう」ということです。是非漫画雑誌を買い、良かったらお目当ての作品じゃない他の漫画も少し読んでみてください。自分の知らない面白い作品があると思いますよ。

おまけ(書いてみた感想なので読まなくても良いです)

・私が基本BLしか読まない為、BL界隈のネタばっかりになってしまいました。層が偏っててすみません。一般誌に百合風味な作品、あるいは普通に百合が掲載されることも増えてるのでしょうか?私は別マガの「将来的に死んでくれ」という作品くらいしか思いつかなかったもので。また、「やがて君になる」は電撃大王に掲載されていますが、電撃大王は少年誌といっていいのかどうかわかりません……と思ったら、wikiには少年・青年向け漫画雑誌と書いてありますね。

・あと、「女性の為の少年漫画」があるなら「男性の為の少女漫画」があってもいいんじゃないかな、とも思ってます。ガンガン系の雑誌に載ってるようなラブストーリーは男性もよく読む少女漫画のようなものなのでしょうか。

・また、「ニコニコ漫画」や「pixivコミック」のようにジャンルを問わず様々な漫画を一つのアプリで気軽に読めるようになったことも、漫画自体のジャンルレスな雰囲気作りに一役買っていると思います。特に「ニコニコ漫画」で悪役令嬢もののコミカライズを読むと、男性目線のコメントが多く流れてきて、作品単体で読むのとはまた違った楽しみ方ができます。

*1:引用元https://www.amazon.co.jp/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E7%89%88%E6%9C%88%E5%88%8A%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%B3-2019%E5%B9%B412%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E9%9B%91%E8%AA%8C-%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-ebook/dp/B07YV4PF7N

*2:引用元

https://www.mangazenkan.com/e-books/item/10637589.html

*3:引用元

https://comic-gene.com/blog/magazine/entry-8594.html

*4:ガロはかつて青林堂から刊行されていた漫画雑誌である。他に類を見ない独創的な漫画が多く掲載され、漫画雑誌の中でも一際異彩を放っていた。つげ義春ねこぢる丸尾末広などがガロにて連載を持っていた代表作家。

*5:引用元

https://bigcomicbros.net/7670/

*6:引用元

https://galapagosstore.com/web/magazine/backnumber/14027003201504060

*7:引用元 https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%BA-1-%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E8%A5%BF%E5%B0%BE-%E9%9B%84%E5%A4%AA/dp/409187245X

*8:引用元 https://www.amazon.co.jp/%E3%81%82%E3%81%A1%E3%82%89%E3%81%93%E3%81%A1%E3%82%89%E3%81%BC%E3%81%8F%E3%82%89-%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB-%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%81%A8/dp/4091871909

*9:引用元 https://www.amazon.co.jp/%E3%83%92%E3%83%90%E3%83%8A-2016%E5%B9%B44-10%E5%8F%B7-%E9%9B%91%E8%AA%8C-%E3%83%92%E3%83%90%E3%83%8A%E7%B7%A8%E9%9B%86%E9%83%A8-ebook/dp/B01CE2A40W

*10:引用元 https://www.amazon.co.jp/%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%B8-2019%E5%B9%B43%E6%9C%88%E5%8F%B7-2019%E5%B9%B42%E6%9C%8816%E6%97%A5%E7%99%BA%E5%A3%B2-%E9%9B%91%E8%AA%8C-%E6%99%82%E9%9B%A8%E6%B2%A2%E6%81%B5%E4%B8%80-ebook/dp/B07NPLRHQJ

*11:引用元 https://natalie.mu/comic/news/213282

*12:引用元 https://www.amazon.co.jp/%E3%83%A6%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%EF%BD%9E%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E7%99%BE%E5%90%88%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC%EF%BD%9E-%E3%83%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9DIGITAL-2C%EF%BC%9D%E3%81%8C%E3%82%8D%E3%81%82-ebook/dp/B07J2CCX1X