筑波大学現代視覚文化研究会レビュー班 公式ブログ

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あるところに はんねるという 僕姫を読み もどか死してしまったオタクがおりました(『僕はお姫様になれない』)

 『僕はお姫様になれない』(若林稔弥/全3巻)は、シンデレラのように貧乏な男装少女・新堂玲(おさがりので兄の制服を着ている)と白馬王子の恋の話である。王子君の「新堂は男」という勘違いが解けず、色々なタイミングも相まってなかなか思いを伝えられない二人を応援するのが楽しい。7人の仲間を連れた純情ヤンキー等、サブキャラクターの個性も光っていて話をうまい具合に拗らせてくれる。同作者のアニメ化もされた『徒然チルドレン』のようなすれ違いや勘違いで非常にもどかしい、けれども心温まる恋愛を見届けるのが好きな人には刺さる作品だと思う。(はんねる)

新商品宣伝の時期です(『HUGっと!プリキュア』第11話)

 11話にして、プリキュアの持つ武器である扱いの新商品が発表された。形は杖を模していて、名前からするとそれぞれに異なる楽器のイメージを付与していると考えられる。今回非常に興味深い点は明日パワーから生まれた剣を敵に向けるのではなく、ハグすることをきっかけに浄化し、新しい武器はあくまで必殺技を言うために使われ、内容的には浄化の補助として描かれているところだ。過去作のハピチャでは同様に剣を生み出したときは敵に切りかかっていたし、報復ではなく抱擁で改心させるのは高次元な行動である。過去作でもドキプリ最終戦に挙げられるような精神的な浄化は見られていたが、前作であるキラプリと比べるとハグプリは肉弾戦を解禁しているためどうしても暴力による懲悪のイメージが強まってしまっていた。ハグプリの敵に対するスタンスはまだ固まってはいないようだが、このような、ある意味戦わない浄化という演出を続けていってほしいと思う。(しゆにや)

アニメの変遷放送枠編

 近年、アニメ枠は変化が起こっている。各放送局のアニメ放送枠の確保、放送媒体の多様化、海外受注…国が「クールジャパン」の一ジャンルとして海外展開を目指し始めており、また、オタクが市民権を得つつある近年、アニメはその地位を高めている。この様々な需要に応えるため、制作側はその放映の形態を様々にしている。2017年夏から15分枠のアニメが台頭していることがその一つではないだろうか。これまでは5分枠、30分枠と長さの長短がはっきりしており、どちらの枠でも尺の都合の合わない作品は工夫をこらしていた。しかし、この枠ができたことでアニメ化のハードルがやや下がったのではないだろうか。また、TOKYOMXのハオライナーズ枠も多様化の1つだろう。この枠は声優や製作会社は日本かもしれないが、中華圏に向けて放映されるアニメである。そのため、演出は中華圏にそったものになっている。この独特の雰囲気が好きな人もいるようだ。この他にもアニメという分化が継続されるように関係各位が日々奮闘している。今後も、その生存をかけて時代に合わせ形を変えつつもアニメが放映され続けることになるだろう。(のび太

サクッとレビュー書いてみた!(『キラッとプリ☆チャン』第1話)

 プリパラの後継作。流石にソラミ、ドレシは使いすぎだ感はあるし、時期的にも総入れ替えは妥当であると思う。「ある目的のためにライブをする」から「自らアイドル活動を発信する」というスタンスに切り替わったのはyoutubeが視聴者層と切り離せない関係になってきたからだろうか。個人的に、より「アイカツ!」に近くなってしまった気がして残念である。プリパラシリーズのカオスな演出も継承されているようなのでそこは期待していきたい。しかし、プリ☆チャンもプリパラに然りキャラデザがいい。私は萌黄えもちゃんを推しである。CVの久保田未夢は前作で演じた北条そふぃとは全くベクトルの違う声質で演じており、この声質が保たれることを願っている。(しゆにや)

この体験はリズムゲームか、それともアクションゲームか(『Thumper』)

 一部界隈で話題になったため、ご存知の方もいるかもしれない。

 『Thumper』はPCだけでなくNintendo SwitchPS4でも購入可能な「リズム・バイオレンスゲーム」だ。重苦しい音楽の中、メタリックな昆虫型(とはいえ虫嫌いの人でも大丈夫そうな外見)の自機が画面奥へと伸びるレールを高速で進んでゆく。そしてレール上に出現するカーブや棘等の仕掛けを、音楽に合わせたシンプルな操作で潜り抜ける。そんなゲームである。

 まず本作の特徴として挙げられるのは、魅力的な雰囲気であろう。Steamのストアページにある「悪夢のような虚空」という表現がぴったりの音楽とビジュアル、カッコいいエフェクト、そしてそこから生まれる疾走感と没入感。一度入り込んでしまえば、気付いたときには何時間も過ぎているほどである。後半のステージでは効果音のせいでメインの音楽を聞き取りにくくなることもあるが、慣れてしまえばあまり気にならないだろう。

 次に挙げられるのは、システムである。最初に自機は装甲で覆われていて、一度までは被ダメージを許されるが、装甲が無い状態でダメージを受けるとゲームオーバーとなる。しかしステージは複数の短いWAVEに分かれており、ゲームオーバーになってもそのWAVEの最初からやり直すことが可能だ。その上リトライ自体は自動で行われるため、ストレス無く楽しめるのである。このようなシステムはアクションゲームにはしばしば採用されているが、リズムゲームでは珍しい。他にもステージが進行するほどに増えるアクション、立ちはだかる巨大なボスなど、アクションゲームらしい要素を多く含んでいるのだ。「アクションゲームは得意だがリズムゲームは苦手」という人、あるいはその逆の人でもきっと楽しめるだろう。

 さて、正直なところ本作はやってみないと面白さが分かりにくいタイプのゲームであると思う。それでも一文で表現するなら、「リズムゲームでありながらアクションゲームのようでもある、シンプルながら骨太な作品」だ。なかなかに人を選ぶ反面、普段ゲームをやらない人でも楽しめるかもしれない。これを見て少しでも気になった人は、『Thumper』で検索して紹介映像を見てみて欲しい。「悪夢のような虚空」が待っている。

 

 ちなみに私はSteamで購入しました。低スペックPCでも問題なく動いてくれるのでとてもありがたいです。(VitaminC)

腰乃先生の前世はもしかしてビジネスホテルのベッドなのでは?(『新庄くんと笹原くん』)

 『新庄くんと笹原くん』(腰乃/全2巻)は、『鮫島くんと笹原くん』(腰乃/全1巻)の笹原くんの弟、笹原真希の物語である。オタク男子高校生の真希ちゃんは、恋愛相談を受けるうちにリア充同級生新庄くんのことを好きになってしまう。コミュ障だった真希ちゃんが「好き」を自覚して一生懸命にアピールしているところが微笑ましい。また、一見色事に慣れていると思われた新庄くんも実は緊張しまくっていたということに気付けるようになるといった成長が見られて良い。余裕を保とうとしていたをしようとしていた新庄くんも、理性を吹っ飛ばして本音をぶつけ合うベッドシーンは格別である。おならをしてしまいシーツにくるまってしまった真希ちゃんに対しての「なあ そっから出てこなくていいから そんかわり俺も中に入っていい?」はまさに理想の恋人の姿であろう。ピロートークも丁寧に描かれ、エロいだけではない、心揺さぶられる話だと感じた。(はんねる)

絶対に読むべきオタク評論本 1冊目(『オタク学入門』)

 私、御星美香はオタクについて研究するのが趣味な変人である。

 他のレ班員の多くの人がいろいろな作品の評価を書いてくれると思うので、今回は少し趣向を変えて、オタクそのものについて書かれた本の中で、読みやすくかつ興味深い本を3冊ピックアップして皆さんに紹介したいと思う。今回は1冊目。

 

① 岡田斗司夫オタク学入門

 90年代に東大で「オタク学」と銘打って、ゼミや講義を開いた岡田斗司夫氏が、オタクがどのようにアニメや映画を観ているかを一般に向けて解説した本。

 この本によると、オタクは3つの視点で作品を観る人々の事だという。

 1つ目が「粋の眼」。「自分独自の視点で作品中に美を発見し、作者の成長を見守り、楽しむ視点」とのこと。本来物語を楽しむという意味では、別にどうでも良いはずの“声優”に基準をおいてアニメを観たり、監督や作画監督など“スタッフ”に基準をおいてアニメを観たりする眼である。

 2つ目が「匠の眼」。「作品を論理的に分析し、構造を見抜く科学者の視点」とのこと。例えば、何話でお話が盛り上がるようにアニメが作られているかを分析したり、作画技術を意識したりする眼である。

 3つ目が「通の眼」。「作品の中にかいま見える、作者の事情や作品のディテールを見抜く目」とのこと。作品が発表された当時の時代背景や作者の発言を作品の内容と照らし合わせて比較し、そこに共通点を見出すことを楽しむ眼である。

 普段は意識していないが、実際我々にはそういう側面があり、とてもよく分かると思う。それを未だオタクに対する差別がひどかった1996年にまとめ、一般に向けて出版したことが本書の評価される最大の点である。

 ただ、作中で紹介される具体例や作品のタイトルが少し古くさく、ちょっと分かりにくいかも知れないのが難点。逆にそこで昔の名作と出会うというのも本書の1つの楽しみ方かも知れない。(御星美香)